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 東京都内のコンビニ店。釣り銭を受け取ろうと、左手を差し出してギョッとした。女性店員が、記者の手を下から支えるように優しく握って小銭を渡したからだ。同性とはいえ、見知らぬ人に触れられるのは抵抗を感じる。

 この「手添え」、接客マニュアルにでもあるのだろうか。店舗を運営する本部に問い合わせると、「両手で手渡すよう指導しているが、それ以上の規定はない。個々の店員が工夫しているのでしょう」という。

 やはり「手添え」で釣り銭を渡す店員が目立つ大手衣料品店でも「お釣りがこぼれ落ちないようにとの配慮。お客様の手に触れることに対して賛否両論はあるだろうが、片手で渡すより丁寧なのでは」と説明する。

 これに対し、レジ接客の教育に約40年携わってきた井上林平さんは「客の体に触れるなんて失礼。絶対やってはいけない」と厳しい。「釣り銭は両手に載せて手渡すのが正しい。両手の内を見せることで、危害は加えませんという意味がある。マナーの基本を知らないから、そういうことになる」

 みぞおち周辺で両手を重ね、ひじを張ってお辞儀する店員を目にする機会も増えた。レジ接客の技能などの検定を行う「日本セルフ・サービス協会」の名原孝憲さんは「検定なら減点です。腕はすっと下に伸ばし、手を重ねておくべき。手の位置はどこでもいいと考えているから不自然な格好になる」と話す。ひじを曲げるほど、丁寧に見えると勘違いしている人も中にはいるようだ。

 かつてレジ係は、速くて正確なレジ打ちの技術が求められた。ところが、バーコード化が進み、レジ操作が簡略化されるに従い、接客技術も求められるように。ここ数年は、品ぞろえや価格での競争に限界を感じている企業が、他店との違いを出すため、レジ係の接客教育に力を入れている。

 流通業界の動向に詳しい、淑徳大講師の小沢信夫さんは、不自然な接客の背景に「丁寧な接客で苦情を減らしたいという企業側の思いがある」と指摘する。あるスーパーでは、苦情の約2割が接客に関する内容で、増加傾向だという。


文章出處:釣り銭に手添え なぜ/2008-7-9 読売新聞





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